ロシアの独立時計職人、アントン・スハノフ(Anton Suhanov)が発表した初の腕時計「レーサー ジャンピングアワーGMT(RACER Jumping Hour GMT)」。そのディテールを探ります。
ムーブメント
ユニークなデザインのためには、ユニークなムーブメントを創作する必要があります。アントン・スハノフは、このことを知っています。彼は、レトログラード・ミニット表示の機構に基づいた表示を備えたムーブメントを構築することに決め、複雑なデザインを完成させました。新しい「時」の始まりに、分針は60からゼロの位置にジャンプしますが、この急激な動きはほとんど目に見えません。その間に2つのアクションが実行されます。レトログラード・ミニットの針を1時間進め、その後1時間静止しています。同時に12時位置のウィンドウに配置されたレーサー ジャンピングアワーGMTの24時間表示デジタル・セカンドタイムゾーン・インディケーターが1時間分進みます。
仕上げ
マスターは、ウォッチメイキングの伝統に則ってモジュールのパーツを製造しましたが、この表示モジュールは不透明なダイアルの下に隠されたままです。この選択は、ウォッチメイキングにおける基本的で重要な伝統のひとつとしても認識されています。マスターはモジュールの細部を細心の注意を払って扱い、手作業によるポリッシュと面取り、エングレービング、スクリュー、ピン、穴石の研磨がなされ、ペルラージュ、ファイン・ストレイト、サーキュラー・グラインディング、サンドブラスト、ロジウムプレイトなど仕上げには伝統的なテクニックを用いました。ダイアルは、アルマイト処理、ルテニウム・コーティングがなされ、ギョーシェ・パターンが施されています。ケース / ダイアル
レーサー ジャンピングアワーGMTのダイアルは独特ですが、ケースにも同じことが言えます。その設計は正多角形の原理に基づいており、この形状は一辺が丸い正方形として簡単に説明できます。アントン・スハノフは、ダイナミックでありながらゆったりとした時間の認識という彼の考えにもっとも適していると信じて、このフォルムを選択しました。この形状は、高速車に見られる空気力学、合理化されたラインを示唆しています。ベゼルを固定するためのダブル・スクリューは、レトログラード針の軸のパッド、ロゴプレート、秒表示スケールに取り付けられた2つのネジと呼応しており、そのデザインは、車からのインスピレーションで誕生した時計に、ほぼ必須の技術的特徴を与えています。さらに、リューズのダブル・ローレットと、セカンドタイムゾーン設定のための2時位置のプッシュボタンの円錐形ガードの形状によりさらに補強されます。インスピレーション
よくあることですが、このアイデアは偶然に生まれました。ある日、車を運転してワークショップに行く途中、時計のことについて考えていました。おそらく当時は、自動車のスタイルで創作された時計のことを考えていたのだと思います。このスタイルの時計と言えば必然的にクロノグラフ、という考え方が支配的だったと思いますが、そこで閃いたのは、「このような固定観念のない時計を創造するのは面白いことだと思いました。早く動く、時間に間に合う、追い越すなど、車をレーシングカーと考えれば、クロノグラフ、というところにたどり着くと思います。その一方、車はハンドルを握っている人の物語であり、フロントガラスの前で開かれる新たな世界の話、急ぐ必要がない時に運転することから得られる喜びの話です。これは、スピードメーターの針が示す数字からではなく、車自体が喜びを与えるときののんびりとした知覚についての話です。」これらのインスピレーションを基に、アントン・スハノフは、新しい時計「レーサー ジャンピングアワーGMT」のアイデアを思いつきました。左側にタコメーター、右側がスピードメーターで、それが車のダッシュボードであることが一目でわかります。それらの間にいくつかの追加インディケーターと数字があります。すべてが正常、そして適切に機能し、そして、アクセルペダルを踏んだことで応答するように、すべてのシステムが適切なタイミングで即座に反応します。車は車のままでなければならないのです。
そして、時計は時計であり続ける必要があります。これはウォッチメーカーとクライアントの間の暗黙の合意であるため、マスターは、この命題をタイムキーパーに変換するタスクを設定しました。これは、魅力的で、面白く、感情に訴えるだけでなく、正確な時間に関する情報も提供するということは言うまでもありません。
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